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E-Care講座

合衆国におけるケアギバー

バーバラ・ホーガン Ph.D.

皆さまとこの会議において、私たちが介護の提供者(以下、ケアギバー)や介護の受給者だけでなく、私たち全員にとって重要だと考える問題についてお話できることを大変嬉しく思っております。

介護は、我々の中のもっとも繊細な部分に関与するだけに、私たちの社会、そして望むべきこれからの社会の根幹において、我々に考察を要求する問題です。合衆国における現在の実態の概要について、また今後の可能性についてお話します。

■合衆国におけるケアギバーの実情

家族ケアギバー協会によれば、合衆国で長期的ケアが必要な人の年齢構成は次のようになっています。65歳以上が53%、18歳から64歳までが44%、18歳以下は3%です。 将来、より多くのより高齢の人が長期的ケアを必要とすると思われます。また、これはすべてのマイノリティエスニック集団の中で、65歳以上がもっとも急速に増加している年齢集団です。これはヒスパニックにあてはまりますが、合衆国国勢調査局が分類する、それ以外の大きなエスニック集団にもあてはまります(注1)。

私たちのいうケアギバーとは誰のことでしょうか。2つの基本的分類として、フォーマルな、あるいはインフォーマルなケアギバーがあります。インフォーマルなケアギバーとは、しばしば、家族の介護者を指しますが、それ以外にも友人、近所の人、あるいはそれ以外でもケアを受ける人が家族だと定義する人も含まれます。合衆国で長期的ケアを受ける7割から8割の人が、無給のインフォーマルなケアギバーによる介護を受け、また合衆国の4家族に一つが長期ケアに関わっていると考えられています(注3)。フォーマルの、あるいは有給のケアギバーの大多数は「専門補助職員」と呼ばれ、看護士補助員や在宅看護補助員などを指します。こうした専門補助職員と家族のあるいはインフォーマルなケアギバーが、長期ケアの大多数をまかなっています(注5)。

性別をみると、合衆国ではインフォーマルのケアの70%から75%が女性によって行われています。男性もケアギバーの補助を行いますが、彼らは上述の補助的ケアを行いがちです。男性はまた、女性という第一次的ケアギバーを支え、二次的ケアギバーの役割を果たす傾向にあります。全体として、女性は男性よりも介護にあたり、週あたり平均50%以上の時間を費やしています(注1,3)

ケアギバーのエスニシティについての研究によれば、50歳以上の高齢者の世話にあたる18歳以上の人口は、アジア系アメリカ人では32%、アフリカ系アメリカ人は29%、ヒスパニックが27%、白人が24%となっています(注3)。将来の可能性を考えると、アジア系アメリカ人のパターンは非常に興味深い示唆に富むものです。というのも、インフォーマルのケアが、男性と女性で平等に、男性48%、女性52%の割合で行われているからです。また、これは将来を考えると大変重要なことだと思われますが、アジア系アメリカ人は他のエスニック集団よりもフォーマルな休息やデイ・ケアサービスを利用する傾向にあります。後ほど、なぜこれが重要であるのか説明します。インフォーマルな介助と並行してフォーマルなサービスを利用するというパターンは、フォーマルなサービスを利用できるほど、アジア系アメリカ人の収入中間値と教育レベルが高いということと相関関係があります(OWLレポートで引用されている、全国家族介護同盟より)(注1)。

■ケアギバーの労働と健康

OWLのレポートによれば、インフォーマルなケアギバーの像は、既婚の女性で、年齢は40歳半ばから50歳半ばで常勤の仕事を持つ人となります。これらの女性のうち、2割から4割が、子供や孫、配偶者や高齢の近親者の面倒をもみています(注1)。家族介護同盟によれば、こうした女性が介護に費やす時間は週平均18時間で、2割の人が育児や仕事の上に40時間も介護に費やしています。多数の人が、1年から4年の無給の補助を提供していますが、年数は1年から40年と様々です。合衆国におけるインフォーマルなケアのコストを、社会的観点から見るならば、196億ドル、人によってはそれ以上の金額が経済に影響を与えていると考えられます。これは、老人福祉施設の費用が83億ドル、在宅あるいは地域でのケアが32億ドルという小さな金額とは対照的であり、いかにこうしたインフォーマルあるいは家族によるケアに依存しているかがお解りいただけると思います。ビジネスに対する不測の損失、つまり失われた生産性を見ると、11億4千ドルになります。社会的レベルでの損失計算を別として、この会議で注目すべき問題は、個人のケアギバーが失った恩益ということです。(介護に起因する欠勤、退職、非就労がもたらす)社会保障、年金、年金生活のための投資資金、就労年齢期における所得の損失は、一生涯のあいだにおよそ65万9千ドルにも及びます(注3)。

介護は、ケアギバーの財政だけでなく、健康の点でも非常にコストがかかります。ケアギバーは、そうでない人たちよりも病気や怪我、死ぬ危険性が高く、こうした危険の程度は、ケアギバーの年齢や性別、障害者の障害の程度によって異なります。例えば、66歳から96歳までの年齢層の、高齢の配偶者を介護する人は、精神的あるいは感情的苦渋を経験し、介護にたずさわらない人よりも63%高い死の危険性を持つとする研究があります。

かりに、高齢の女性が、アルツハイマーを患う夫の世話をするとします。病の進行が進み、女性自身も年を重ねていく中で、女性の危険要因が増加していくわけです。ケアギバーの精神状態をみると、46%から59%が恒常的に鬱状態にあるといわれ、数字はどのケアギバーをみるかによって変化します(注3)。しかしどのようにみても、この数字は一般の人よりかなり高いわけです。さらに低所得者層は、介護にまつわる精神的・肉体的危険因子とストレスに晒されやすいということも重要です。明らかに、いろいろな資源へのアクセス権をもつ人ほど有利な立場にあるといえます。世界保健機構(WHO)の1998年レポートは、介護が、配偶者喪失や教育レベルの低さと並んで、健康の社会的要因ならびに後年、女性に望ましくない影響を与えるキー要素であるとしています(注6)。したがって、介護は女性の健康と後年の福利全般に大きな、望ましくない影響を与えうるといえます。

■有給のケアギバーの実情

フォーマルケアとインフォーマルケアの間にある一つの重要な接点は、インフォーマルなケアを自宅で子供や孫、配偶者や高齢の親族に提供している女性のうち何人かは、有給のケアギバーとして働いているということです。こうした有給の介護の大多数が、看護士補助員や在宅介護員、看護士助手、日常生活の世話人といった専門職補助員によって行われています。無給・有給の介護を生涯行ってきた女性の中には、自ら行う介護を補ってくれるフォーマルなサービスを利用することができない、あるいは必要な時に利用できると確信できないというのは、事情をよく物語っていると思います。

典型的看護専門補助員あるいはフォーマルなケアギバーは、中年の、単身で子供を育てている、教育をあまり受けていない、貧困以下あるいは貧困に近い生活をしている女性です。看護補助や在宅看護補助の賃金は、合衆国のあらゆる職業中でもっとも低く、福利厚生はほとんどありません。介護者として医療を施しているにもかかわらず、フォーマルなケア提供者自身は健康保険を与えられていません。彼らの仕事が非熟練の仕事である、介護には熟練の技能など必要ない、というのは非常に誤った見解です。エスニシティの観点からすると、合衆国全体では、フォーマルケア提供者の大半が白人です。というのも、この時点においては、白人人口が多数を占めるからです。しかし、都市部や地域によっては、おびただしい数の、米国生れあるいは移民のマイノリティの女性が介護を行っています(注7)。もちろん、移民労働政策が大変重要な鍵を握っています。

リンダ・ノルカーによる、フォーマルとインフォーマルのケアギバーについての最近の研究は、フォーマルなケアギバーとインフォーマルなケアギバーの間に類似性を指摘しています。どちらもほとんどが女性で、要求度の高いかつ困難に直面する仕事を行っていることがわかりました。人や物を持ち上げたり、運んだりという肉体的に強い身体が要求されるほか、強靭な精神力も必要とされます。なぜなら、ニーズと期待がしばしば対立するような日々をうまく渡り歩くことが求められるからです。例えば、高齢で、体も弱っている人の世話をし、その世話を安全で、しかも高齢者に介護を受け入れやすいものとし、さらに人間の尊厳を保ってもらうには、かなりの技術が求められます。しかし、上述のように、介護は非熟練労働であるという見方があり、それは介護者に対する乏しい保障に現れています。インフォーマルなケアギバーは、まったくなんらの報酬を受けていないか、あるいはフォーマルなケアギバーとして大変低い賃金を得ているか、あるいはその両方です。インフォーマルなケアギバーは、報酬を得ていないだけでなく、無収入ということで退職後の貯えの面でも、また、ケアを与えている現在の段階での財政面でも、無職の対価を支払っているわけです。フォーマル・インフォーマルのケアギバーはどちらも、仕事に対して限られた認識しか得ておらず、これはどちらの介護者も支払われるべき報酬よりも少ない額しか支払われていないことに現れています。ケアギバーの多くが働きすぎです。例えば、低賃金のためにフォーマルケアギバーの多くが二つの労働シフトをこなし、その上帰宅後、さらに誰かの面倒をみるという具合です。職業がどのようなものであれ、インフォーマルなケアギバーの多くが有給の労働力としてフルタイムで仕事をしています。非常に興味深いことに、どちらのグループも祈りと他者からの支援を、困難に立ち向かうための手段の中でも上のほうに位置付けています。社会から認識を得ていないとはいえ、他の資源の中に自らの仕事の価値や自己アイデンティティを求めています。フォーマルなケアギバーは、職場における無力感――老人福祉施設は非常に厳しい規則下にある――を抱えながら、あるいは個人的に深く関与するケアを与えるその患者について何も知らされずに、家庭を訪問し、ケアをする中に更なるストレスを感じています(注5)。

■ケアギバーの問題を解決していくための方策

合衆国では、介護と長期ケアは、健康保険制度の(あるいは健康保険制度が存在しない)中で行われています。国民健康保険はありませんし、いかなる保険をも持たない人が4千9百万にも達します。アメリカで保険を持っているという人でも、保険は急性の疾患ケアに焦点をあてており、長期ケアへの適用は考慮されていません。しかし、現在でも改革の場があります。アメリカ高齢化社会協会発行の雑誌『数世代』は長期ケアにおける労働力問題を取り上げましたが、その中でノールカー氏は、フォーマル・インフォーマルのケアギバー双方に効果的であると思われる3つの援助手段をあげています。1つは、器具や訓練といった道具的支援、2つ目は休息(休暇)といった社会的支援、3つ目は、日本を含む他の諸国に見られる長期ケア保険制度といった保障です(注5)。アメリカ上院に提出された2002年レポートの中で、OWLはインフォーマルなケアギバーを直接・間接に支援するための公共政策勧告を行っています(注1)。こうした支援策や勧告はすべて、ケアギバーが患者だけでなく、社会全体にもたらす貢献を、政策と実施において認めることを焦点としています。

アメリカのどこにケアギバーの貢献を認める、あるいは認めようとする事例を見ることができるでしょうか。ケアギバー支援プログラムや全米介護家族支援法があります。法律は非常に限定された支援を提供するにとどまっていますが、これはアメリカにおける公的健康保険設立の萌芽とみることもできます。保険はある程度は存在します。例えば、高齢者にはメディケアがあり、低所得者にはメディケイドが、また、退役軍人には退役軍人援護局が医療を提供しています。ケアギバー支援を含む包括的ケア・モデルもあります。一例は、死を迎えつつある人をケアするホスピス・プログラムで、ホスピスは伝統的に患者と介護者をケアのユニット(単位)と定義し、学際的(多分野にまたがる)モデルを用いています。また別の事例としては、PACE(高齢者のための包括的ケア・プログラム)があります(注8)。

■まとめ 〜ケアギバーとケアを受ける人を前線に置く〜

私たちは、私たちの経験と研究から、望むべき将来展望という観点からする選択すべき方向性は、介護者と患者を前線におくということだというイメージをもって、概観を締めくくりたいと思います。ケアの授与がうまく機能するのは、提供と授与が双方向に働いているときだと考えています。ケアの提供者とケアの受取り手は、彼らのさまざまな苦悩にもかかわらず、介護の授与について我々に多くのことを教授してくれます。介護家族同盟やOWLといった組織は、ケアギバーのケアの重要性について啓蒙活動を行っています。ケアの計画から研究計画構築のための政策構想のあらゆる段階で、ケアギバー自身が彼らの考えを聞いてもらうということは、我々すべての人間のケア向上につながると考えます。

また、アートの中に、個人的・社会的レベルでのケアの可能性について、より深い洞察が見いだされるということも確信しています。アーツは、本質的価値を認める、公正で思いやりのある社会への将来像と革新的実践の源であり、しばしば、無視されたり否定されたりしていること、また、研究や実践において端に追いやられていることに目を向けさせたりします。皆さんがどのようなプロジェクトを行っているかについて、お話をうかがうのを楽しみにしています。ご静聴どうもありがとうございました。

(注1) Family Caregiver Alliance, Fact Sheet: Selected Caregiver Statistics. Family Caregiver Alliance, San Francisco, CA. Revised Oct. 2001. www.caregiver.org.

(注2) Morgan L & Kunkel S, Aging: The Social Context, 2nd ed. Thousand Oaks, CA: Pine Forge Press, 2001, pp.101-102.

(注5) Noelker, Linda. The Backbone of the Long-Term Care Workforce. In Who Will Care for Older People: Workforce Issues in a Changing Society, Generations 25: 1, Journal of the American Society on Aging, Spring 2001. www.asaging.org.

(注6) Bonita, Ruth, for the Global Commission on Women's Health. Women, Ageing, and Health: Achieving Health Across the Life Span. World Health Organization, Geneva, 1998. www.who.int.

(注7) Stone, Robyn. Research on Frontline Workers in Long- Term Care: Job Performance, Retention, Quality of Care. In Who Will Care for Older People: Workforce Issues in a Changing Society, Generations 25: 1, 49-57. Journal of the American Society on Aging., Spring 2001. www.asaging.org.

(注8) National PACE Association, 801 North Fairfax St., Suite 309, Alexandra, VA 22314, info@npaonline.org.

(注9) Physicians for a National Health Program (PNHP). 29 E. Madison St., Suite 602, Chicago, IL 60602, www.pnhp.org.

この文章は、2003年に開催されたアメリカ・アーツ・イン・ヘルスケア学会のプレ会議での講演を収録した『「ケアする人のためのケア」日米における草の根的率先活動』(編集・リン・ケイブル/発行・アメリカ・アーツ・イン・ヘルスケア学会(SAH))の一部を引用・編集したものです。

アメリカ・アーツ・イン・ヘルスケア学会主催「ケアギバーのためのケア」プレ会議(フロリダ州ゲインズビル)にて

バーバラ・ホーガン(Barbara Hogan, Ph.D.)
看護の立場から見た心理社会学的問題解明するため、看護助手らと共同の民族誌学的研究を行っている。2003年7月より、フィラデルフィアにあるチェスナットヒル大学で医療と精神性についてのプログラムをコーディネートしている。

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