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悲しみ

(渡辺俊之/精神科医、高崎健康福祉大学教授)

介護とは、喪失との出会いである。健康であった親や配偶者が弱っていく。介護している人の死期がだんだん近づいてくる。悲しみの感情が心にわき上がる。悲しみは自然な感情である。悲しみはときに否認される。悲しみが体験できないのは、それを抱える心の器がないか、それを抱える準備が心にないからであろう。あるいは、悲しみが大きすぎるのであろう。

悲しみは、周囲の人も悲しくさせる。悲しみを抱えた人に会うことは、辛いことである。悲しみは涙に変わる。涙を流す人に対して、周囲の人の心にさまざまな感情がわき上がる。誰もが、悲しみや涙に直面すると「涙がとまらなかったらどうしよう」「もっと混乱したらどうしよう」という感情を喚起させられる。これは、悲しみに暮れる人に自分自身の心の投影しているからである。涙は自然に止まるものである。涙を流すほどに悲しい人は、気のすむまで泣かせてあげればよい。涙は、カタルシス(心の浄化)の作用がある。

悲しみには、心の苦悩を癒してくれる作用がある。喪失には必ず悲しみを伴うために、悲しみを抱えて、ときには他人と共有することが大切なのである。悲しみが体験できないときは、悲しみは心に抑圧される。そのため躁的防衛が機能して、あっけらかんとしたり、何でもないというような態度で明るく振舞ったりすることがある。こうした人は悲しみに耐えられないのである。悲しみを無視し、悲しみは弱い人のものだと思っている人は、悲しみに負けているのである。正常な悲しみを体験できないとうつ状態に移行することがある。介護における悲しみの場合は、失うべき対象は外部にある対象(要介護者)であるが、要介護者への同一化が強いと自分の一部も失われるように体験される。介護の対象と自分の同一化が強いほど、うつ状態に移行しやすい。

【参考文献:『介護者と家族の心のケア:介護家族カウンセリングの理論と実践』金剛出版】

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