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美術館×インクルーシブデザイン
=みんなの美術館プロジェクト
プロジェクトの概要
エイブル・アート・ジャパンでは、2008年から、横浜市民ギャラリーあざみ野をベースに「みんなの美術館プロジェクト」を実施しています。これは、インクルーシブ・デザインワークショップの手法を使って、誰にとっても使い勝手の良い美術館とは何かを考える、当事者および市民参加型プログラムです。
「みんなの美術館プロジェクト」は、エイブル・アート・ジャパン、横浜市民ギャラリーあざみ野のほか、九州大学大学院芸術工学研究院准教授の平井康之さん、女子美術大学美術館学芸員の梅田亜由美さん、全盲の美術鑑賞研究者で筑波大学大学院博士課程の半田こずえさん、東京藝術大学大学院映像研究科博士課程の松浦昇さんの、2団体4個人からなる「美術館×インクルーシブ×デザイン実行委員会」が中心となって実行しています。
このプロジェクトは3つのフェーズに分けて進行しています。
第一段階は、さまざまなユーザーごとのワークショップを開催し、徹底的な課題の抽出を行うことを目的としています。第二段階では、抽出された課題を解決するためのアイデア展開を行い、第3段階ではこのプロジェクトで得られた気づきや解決作が全国に拡がることを目指します。
これまでに、「聴覚に障害のある人と美術館」、「歩行に困難がある人と美術館」、「日本語以外を母語とする人と美術館」、「視覚に障害のある人と美術館」、「高齢の人と美術館」の5回のワークショップを実施し1000を超える「気づき」をリストアップしてきました。今後も、知的障害のある人、精神障害のある人、子ども連れなど多様なユーザーとのワークショップを通して、それぞれの課題を抽出していく予定です。
こうした課題抽出型ワークショップを実施する一方で、課題解決型ワークショップも平行してスタートしています。同じ種別の障害をもつユーザーであっても、その人の特性、ニーズ、感じている課題は実に多様です。例えば、同じ視覚障害と言われる人であっても、生まれながらに障害のある人、高齢になってから障害を持った人、まったく見えない人や見えにくい人というように経験も状態も一様ではありません。また、聴覚障害のある人の中にも、まったく聞こえない人と聞こえにくい人、手話を第一言語としている人と文字に書かれた日本語を第一言語としている人では、言語に関する捉え方がちがい、展覧会場内のパネルやキャプションに対するニーズがまったく違うということもワークショップで明らかになりました。
もうひとつの狙い
ワークショップにはリードユーザー(当事者としての参加者)のほか、一般参加者として、近隣住民や横浜市民ギャラリーあざみ野のアートサポーター、女子美術大学を中心とした大学生、企業のデザイナーなど多様な人が参加しています。4年目に入り、今後は、課題抽出型のワークショップを継続する一方で、課題解決型のワークショップの開催比重を上げることで、具体的な課題の解決プランをインクルーシブデザインワークショップの手法を通して実施していきます。
このワークショップは、横浜市民ギャラリーあざみ野が多様な人々に開かれたミュージアムになることだけを目指しているのではありません。ここで得られた課題やその解決方法を広く社会の財産とすることで、各地のミュージアムをはじめ公共施設が、多様なニーズを知り解決のためのアクションを起こすきっかけとなることや、公共財へのアクセスをはじめ、デザインやプログラムに、多様な市民が参加することを期待するプロジェクトなのです。
これまで私たちは、あらゆる場面で、当事者の不在や、市民と公と間に不幸な対立を感じたり、風通しの悪さから起こる使い勝手の悪さなどを感じてきました。このプロジェクトは、ミュージアム、さまざまな立場の当事者、市民、研究者、NPOなどが参加することで、市民対行政という対立の構図ではなく、全員が当事者であり、全員参加型で公共財の使い勝手を高めていくために知恵を出し合うという、新しい社会参加のためのトレーニングの場でもあると考えています。したがって、横浜市民ギャラリーあざみ野で抽出された課題や解決方法だけがいわゆるHOW TOとして伝わるのではなく、当事者参加、市民参加による課題の発見とその解決のための議論のプロセスそのものを各地の人が経験し、相互に多様性を認め合いながら、課題を解決していくことを期待しています。

他館での展開
「みんなの美術館プロジェクト」がきっかけとなって、横浜美術館では「様々な人に開かれた美術館を目指して」というプロジェクトが立ち上がっています。これは文化庁の「美術館・歴史博物館活動基盤整備支援事業」の助成を得て実施しているプロジェクトで、「みんなの美術館プロジェクト」の実行委員のメンバー全員が委員として参加しています。まずはじめに視覚に障害のある人をリードユーザーとして、課題の抽出と課題の発見から生まれた鑑賞プログラムの開発、モニターによる鑑賞会の実施と手直しを行うことで、視覚障害の人のみならずより多くの人にとって使い勝手がよく、より美術や美術館に親しみを持つようなプログラムを開発しています。
太田好泰(エイブル・アート・ジャパン事務局長)


